ビビッド・ミッション、お任せを
         〜789女子高生シリーズ
 


       




吹く風も冷たく、まだまだ冬の気配も色濃い空の下。
ステーションビル内とそれから周囲の各ビルにかけて、
様々なテナントの入ったショッピングモールと、それから。
透過型アーケード“ガレリア”つきの地元商店街とが、
駅前の大通りと接す格好でギュッと集まっているという、
お買い物には打ってつけな場所柄から。
平日の昼間でありながら若い人でにぎやかだった、
快速列車の乗り換え駅という、小ぶりな繁華街・Qタウン。
そんな街並みに居合わせた人々の衆目を、一気に集めた格好で轟いた、
駅前での突然の炸裂音というのの真相は。
こしょこしょと聞こえていた
“駅前のカフェへ車が突っ込んだ”というほどの惨事ではなくて。
だがだが、乗用車の運転を誤った誰かさんが、
バックの目測を誤って、舗道に配置された車止めへ車をぶつけてしまい。
その衝撃で開いたエアバックが 運転席を埋めるほど膨張していつつも、
降りては来ずに慌てて逃げ去ったという。
物損事故とその顛末という、逃げたらいかん事態には違いないながら、
誰か怪我人が出た訳でなし、
むしろ見ていた人には微妙に笑えた、一種 滑稽な一幕だったそうで。

 「とはいえ、
  そっちの騒ぎとの間の合いようから鑑みるに、
  目撃者や妨害を恐れてのこと、
  連動させることで人目を逸らす、
  陽動を目論んだ芝居だった可能性もあるようだな。」

たとい車止めが曲がってなくとも、一応は手配をせねばならない事象。
よって、車と運転手を割り出すべく、防犯カメラの映像を解析中とのことだが、
事故を起こした車は在り来たりの白っぽい軽四輪だったそうだし、
運転手も出て来なかったので顔まで見た人はいないも同然。
しかも、微妙に進入角度が巧妙で、
周辺に設置してあったどのカメラでも、
ナンバープレートを捕らえてないらしく。

 「計画的、ですよね。」
 「たまたま、かも知れんがな。」

そんな外連(けれん)つきで謎の男らから攫われかかってた少女は、
上質な濃色の生地で仕立てられた、
ウエストカットのボレロ丈のジャケットにセミタイトスカート、
所謂、上下のアンサンブルという、
随分とシックなデザインのツーピーススーツ姿ではあったが。
そのような大人びたいで立ちであっても、
その瑞々しさが隠し切れてはいなかったほど若々しい、
恐らくはこちらの三人と変わらない世代、十代だろう女の子であり。

 「単なる事務員とか、ましてや学生には見えぬな。」

ブランドものではないらしい、かっちりした仕立ては、
カジュアルぽいところは見えないから遊び着ではなかろう。
さりとて、就職活動で着るような系統の、
フォーマルはフォーマルでも、無個性なほど地味という装いでもない。

 「ゴスロリとまでは行かぬものの、
  どこか…そう、骨董価値がありそうな仕立てだな。」

清楚が過ぎて、由緒正しき瀟洒なところとかいう特徴まではないながら、
古風で品があっての、格式を感じさせるいで立ちで。

 「そうなんですよね。でも、身元が判らないなんて…。」

身分証や財布や携帯が入ってたバッグを奪われたのかなぁ。
でも、それだと窃盗として手配出来ますよね。
ただ…そっちが目当てだとして、
じゃあ彼女は置き去ってしまえばいいのに、
手間を掛けて連れ去ろうとした訳でしょう?
そっか、だったらやはり、
何かモノが目当てだったんじゃあなくて…などなどと。
さすがに枕元で騒ぐのはよくないからと、続き部屋になった隣室で、
七郎次に平八、久蔵といういつもの顔触れが、
ああでもないこうでもないと、
一端の探偵よろしく、推理だか思案だかを巡らせているのを、

 「〜〜〜。」

ああもう、こやつらはと、
微妙にその彫の深い造作の目許、やや眇めて見やっているのは。
こちらも毎度お馴染み、
警視庁の捜査一課が誇る、策と計略の匠、(おいおい)
強行犯罪担当という班を任されておいでの、島田警部補、その人で。
いかにもにぎやかな女子高生たちが
囂(かまびす)しいお喋りを繰り広げているだけならまだしも、
お題になってる内容が内容なだけに。
まぁた危険なことへ首を突っ込む気か、こやつらはと、
ついつい渋面を作ってしまいもするところだが、

 “でもまあ、今回は…。”

人事不省の少女を抱えたまんま、
自分たちで何とかしようと目論んでのこと、
自宅や関係先へこそりと引っ張り込む…という運びではなく。
警視庁の警部補殿という“その筋の知人”へ、
これこれこういう事態に遭遇しましたと、
こたびは真っ先に連絡して来た彼女らだったので。
これまでのいつも、何度言っても改めないままやらかしてきた
“性懲りもなく”ではなかったこと、褒めてやってもいいかも知れぬと。
お髭の警部補さんも、複雑そうに苦笑をしてしまう始末。

  こんの親ばかさんが…。(大苦笑)

そう、此処は桜田門にある警視庁の庁舎内の一角、
怪我をした被害者などを保護したり、
手当てが出来るようにと用意されてあった“救護室”だったりし。
大変な騒動に関わってしまいましたとの報告をして来たお嬢さんたちと、
攫われかけていた謎の少女という、合計4人の娘さんたちを収容したことで、
日頃の殺風景さが一気に華やいでいるところ。
いやまあ、それはともかくとして、だ。

 『だって、身元探しは苦手ですもの。』

今 最も必要なのは、
何処に居るのかという“人捜し”じゃあなく、
此処においでなお人の保護と、その身許探しだったので。
被害に遭ったのは か弱いお嬢さんだ、
一刻も早く無事なところへ保護せねば、
あんな物騒なのが再び襲って来たらばどうなるか。
それから、ご家族もご心配なさってるだろうから、
なるだけ早く“無事ですよ”と知らせて差し上げなくてはと思ってのこと。
それにはどうしたら良いのかといや、
大人がしっかとした防壁を構えていて、
調べごとにも世間へのアナウンスにも信頼のおける、
警察という“公安”に全員で駆け込むのが一番だろうという、
至って常識的な判断を働かせたまでのこと。
ついでに言えば、

 『だってだって、もう荒ごとは済んでいるのだし。』

畳むべき悪党、成敗すべき女性の敵は もう居ない。
既にきっちり追い払ってしまっており、危機は回避されていて、
“ヒットエンドラン”もとえ
“オープンエンドシャット”なケースだったので…って、
こらこら、そういう順番なんだもんなんて、
威張っててどうするよ。(苦笑)

 「あ…。」

一応はとお医者様に診てもらったところ、
外傷もなければ薬物を飲まされたような不自然な気配もないとのこと。
そんなお嬢さんが、やっとのことで目を覚ましたようで。
用心のためにと、
同じお部屋の片隅で見張りかたがた付き添ってらした婦警さんが、
島田警部補とお声を掛けて来、だがだが、

 「お…。」

そんな彼のスーツのポッケで、ほぼ同時に携帯電話が自己主張を始めたため。
彼も居たんですよの佐伯刑事が、
目顔で指示されたまま、お隣の仮眠室へと足を運ぶ。
それへと従うように、パイプ椅子から立ち上がったお嬢さんたちだったが、
そこは色々と心得てもおり。
どやどや詰め掛けては混乱もするだろし、何より気の毒かも知れぬと、
まずは、戸口辺りから そろぉっと覗くだけでおれば、

 「…気分はどう? 目眩いがするということはない?
  頭が痛いとか吐き気がするとか。」

付き添っていた婦警さんが優しく訊いている声へと、
応じるお返事は聞こえない。
ちょっとした“間”があってから、

 「もしかして日本語は通じない?」

風貌は日本人だったので、そうと対してみたけれどと、
そういう意味合いのお声をかけたところで、
アッとこちらのお嬢さんたちも改めて気づいたのが、

 “そっか、何も日本人とは限らないんだ。”

そう。血統的には日本人でも、
例えば平八がそうであるように、
生まれや育ちは別の国かもしれないし。
どうかすりゃあ血統だって
微妙に他所のアジアの国の人かも知れぬ。
ここが日本の、しかも町なかだったのと、
彼女を抱えてこうとした顔触れが日本語を操っていたので、
違和感も何もなく、日本人だという基盤を疑わなんだ。
すると、

 「…大丈夫です。日本語も判りますから。」

すぐさまという返事がなかったのは
状況が掴めなくての呆然としていたからか。
ややあってそんなお声が聞こえたものの、

 “…判ります、か。”

その装いへの違和感も、
それならば均されるような気がして来たほどに。
やはり このお嬢さんは、
日本人の風貌ながら、どこか異国の人であるらしく。
改めて訊かれた体への異状は“ない”と応じると、

 「助けていただいたのですね、ありがとうございます。」

意識がないまま、見覚えのないところで目が覚めただなんて、
心細いことこの上なかろうに。
冷たい切り口上にならぬ程度の柔らかい声音で、
案じてくださって…というお礼を含ませた返事を返すところなぞ、
むしろ、今時の子という年齢にそぐわないほど、
よく出来たお行儀でもあって。

 「……ただの観光客では。」

なさそうだと、久蔵がこそり呟きかかったその声と重なったのが、
ノックもなしのドアがいきなり開いた物音。
廊下からの出入り用というそれは、
まずは隣りの次の間へ通じる側のドアだったので、
寝ているところへの不躾さはなかったけれど。
それにしたって、
いくら警察という庁舎内だとはいえ、ここは医療関係の区画だし、
何より今は体調が悪かろう人が収容されていての使用中。
知らなかったなら改めよという、非難を込めた鋭い眼差しを、
3人の少女らがキロッと向けたものの、

 「こちらへ収容された少女がいると聞いて来ました。」

なかなかにぱりっとした、仕立てのいいスーツ姿のその男性は、
結構上背もあっての、神経質そうな細おもて。
撫でつけた髪に、一応は仄かに微笑っておいでの柔和そうな面差しだが、
要の“目”が笑ってないぞというの
十代のお嬢さんがたにも一見して判ったほどの、
“慇懃無礼”のかたまりのような男であり。
そんな突然の無礼者は、当然のことながら
室内にいた唯一の大人で警察官でもあろう勘兵衛へと
お声を掛けたのであるらしく。
口調こそ“です・ます”ながら、
どう見たってこちらを見下してるのがありあり判る。
不愉快なほど堂々とした顎先の上がりようは、
階級にしか関心なさげのホワイトカラー、
もしかせずとも“警察庁”関係者ぽくて。
そんな不敬な奴には、いっそ無視で十分だぞと。
これは久蔵や平八のみならず、
七郎次までが“かっち〜ん”と来てのこと、本心から感じたことなれど。

 「ああ。…連絡は受けている。」

勘兵衛が口にしたのは、そのような言いようで。
しかも、

 「では。」

相手は、単なる係の者が相手でもあったかのように、
手短にも程がある会釈だけを寄越すと、
その身を一旦引いてのドアを大きく開けて見せた。
すると、彼よりも体格のいい、しかも妙に寡黙そうな、
だからこその威圧を感じる種の男性らが
数人ほど…4、5人くらいか入って来るではないか。

 「な…っ。」

目を覚ましたばかりの、
まだ安静が要るだろう人がいるところだというにと、
その不躾けぶりや この展開へ、
ますますのこと むっかり来た3人娘だったものの。
そんな存在があることなぞお構いなしという様子で、
つかつかっと広い歩幅のままどんどん入って来てのそのまま、
くりぬきになっていた隣室への戸口へまで至ると、

 「〜〜〜、※○◇◇?」

英語のような、いや、それにしてはな抑揚も混じってはいないかという、
微妙な何かを先頭の男性が口にした。
明らかに、保護した少女への呼びかけであり。
居丈高に怒鳴るというような語調ではなかったけれど、
逆に言やぁ、いたわるような案じるような気配もまた、
一切なかったのは明白であり。
現地の、つまりは他所の人の目があったから? 公務の一環だから?
それにしたって、
災難に遭ってた気の毒な、しかも年端もゆかない少女を相手に
それはないんじゃないかと。
ますますのこと、むっかりしたこちらの三人なぞ、
相変わらずに視野にもなかったか。
容赦なくという勢いで、
続いた男衆らが無気質な看護用のベッドへ次々と近づくと。
こちらの陣営が“あ、いやな予感が”と思う間もなくのこと、
左右からという格好の、見たまま力づく、
ベッドの上へ身を起こしかかっていた彼女を抱え起こして。
それだけではなくのこと、
両側から支えるように…とは言い難いほど強引に、
少しほど前に久蔵が怒髪天になってしまった光景にさも似たりの、
拉致も同然、無理から連れ出そうという構えを取るではないか。

 「ちょ…何するんですっ。」

それじゃあさっきの胡乱な連中と変わらないという、
酷いという訴えは伝わったか、だが、
男らの内の一人として、こちらへ視線を振るでもないままであり。
女子供の存在なぞ歯牙に欠けるまでもないということかと、
尚のこと憤怒の丈を上げる彼女らへは、

 「すみませんね、彼女を保護していただいたと訊いております。」

一番最初に顔を出した男が、代理のような声を掛けてくる。
何だお前には訊いとらんわと、
彼女には珍しい、あからさまにお怒りのお顔をした久蔵の隣から、

 「だったらお判りでしょう。すぐに動かすなんて酷だって…。」

七郎次が論を尽くそうとしかかったものの、
そんな暇にも黒服の男たちは立ち止まることはなく。
手際のよさと切れのいい足取りで、
少女らの傍らを通過しようとしかかっていて。

 「…っ、痛い。」

とんと当たったか、平八が声を上げたところ、

 「ソリィ。」

何よ、あの 上からの言いようはと、
ひとしきり少女らを怒らせた一言だけを振り落としての、
やはりとっとと部屋から出ようとする彼らであって。
そんな彼らに半ば抱え上げられての、連れられてゆく少女はといえば、

 「……っ。」

何か言いたげのお顔は必死で、だが、
大人に、しかも数人がかりで抱え上げられては、抵抗出来る余地もなかろう。
そんな大人らの間では、
何も言い合わぬまま、されど
“承諾”という形の何かは取り交わされていたらしく。
こんな理不尽なとお怒りの少女らの胸中も察しつつ、
だがだが、あえて制す様子もないまま。

 「それでは、ご挨拶とお礼は改めて のちほど。」

白々しくも型通りのお言いようと共に、
そういや名乗ってないぞ、こいつという“案内役”の誰かさんの手で、
ドアが再びカチャリと閉じるまで、
黙ったままで通した勘兵衛でありもして。

 「…っ。」
 「酷っど〜いっ
 「どういうことですか、勘兵衛様っ。」

終わってみれば あっと言う間で。
つかつかつかと無慈悲な行進をし続けた連中のやりようを
そちらも黙って見ているしかなかったらしい
佐伯さんや付き添いの婦警さんもお顔を出してる控えの間。
日頃は結構、説明の足りない事象でも
勘兵衛のやりようであるなら
そのまま納得してしまう傾向
(ふし)のある七郎次でさえ。
合点がゆかぬと眉を吊り上げてしまっているのへと。

 「気持ちは判るが、まずは落ち着きなさい。」

そうと言いつつ、勘兵衛がこそりと見やったのは、
七郎次が白い手で捕まえていた久蔵の手元。
そうとされていなければ、
街での騒ぎのさなか、彼女には珍しくも空振った特殊警棒での一撃が、
今度こそはと瞬殺の勢いで飛び出していたに違いなく。
殴られていてもしようがなかったかなとの苦笑を咬みしめ、

 「これも本来ならばオフレコな話なのだがな。」

スーツの上着の懐ろを見下ろしかかり、
ああそうだった、煙草はやめたのだと、
こんな間合いに思い出したほど。
彼もまた内心では歯噛みしていたものか、
そんな自身への苦笑を重ねてのそれから、

 「あのお嬢さんは、
  まだ十代だというに、とある王国の皇女様の侍女なのだそうだ。」

先程、妙な間合いでかかって来た電話は、
そういったことを勘兵衛へ手短に伝えたそれだったのだろう。

 「とある国?」

何で言えないのか、何で暈すのかと、
七郎次が問い詰めるように訊き返したのへは、

 「…国交がない?」

意外にも久蔵が ぼそりと呟き、
勘兵衛もそれへとうなずいて見せる。
要は、そこからしてオフレコなことであるらしく。

 「まだ正式な国交はない国なれど、
  レアメタルという資源が見つかったところから、
  近年注目されておいでのお国だそうで。
  こたびはそれを踏まえての国交成立を目指し、
  大臣だの次官級の存在がお越しになられるその前に、
  まずはの友好使節として、王族の末姫が来日することとなった。」

当然というのも何ではあるが、
こうまで内緒内緒で固められているということは、
世間的にも公開されてはない事実なのだろう。

 「確かに、
  どこのニュースでもそんなことは扱っていませんでしたね。」
 「そんなで“友好”が結べるものなの?」

理屈がおかしいと、これは七郎次が訊いたのだが、

 「友好使節というのは名目でしょう。
  政治的な責務はないとするためのね。」

 「あ…。」

他愛ない一言でも、
あとあとで言質を取られてしまう“政務”使節じゃあなくて。
あくまでも、国交したく思いますという思惑だけ届ける伝書鳩的な、
そんなお役目なんじゃないでしょかと口にした平八だったのへ、
佐伯刑事がうんうんと頷き、その傍らでは婦警さんが口元へと手を添える。
ここの、警察機関という場にいた大人たちへも、
広くは知らされていなかった話のようであり、

 「彼女は本来、本国での傍づきという身だったのだが、
  幼い皇女への勝手が最も通じているということと、
  両親の母国でもある日本の言語に通じておいでなところから、
  今回の外遊にも同行するようにと抜擢されたのだそうな。」

あんなにも若い身でそんな大役を…と、
今の日本ではよほど限られた世界にしかなかろう、
どこか帳尻の無理強いが見えるよな“お役目”とやらへ、
それはまたと感心しては見たものの、

 「そんなお人がどうして、
  こんな地方都市の繁華街で拉致されかかってたんですか?」

 「知らぬよ。」

勘兵衛の一言は、言えないという意味か、
それとも、本当にそれ以上は聞かされちゃあないということか。
ただ、こんなに芸のない言いようも珍しいことであり。
それをもって、彼にとっても不意打ちだったのは違いないようだと、

 『そういう順番になってしまう人柄って、
  問題ありなんじゃありませんか?』

 『だって しょうがないじゃない。』

勘兵衛様が“口八丁・手八丁”なのは、
ヘイさんだって久蔵殿だって御存知でしょうよと、
それで弁護のつもりか、言い立てる七郎次だったのへ。

 『それにしたって…。』

常からそういうお人だと油断なく身構えてていいんですか?と。
情愛と信頼とは別物なのかなぁなんて、
それもまた問題大ありな把握を周囲からされそうな、
元副官殿の微妙な発言はともかくとして。

 『でも…良親様、もとえ、
  丹羽さんが関係してるってのはどういうことだろう。』

 『〜〜〜〜???』
 『う〜ん。』

肝心な当事者を掻っ攫われ、
騒動自体ももしかして揉み消されるかも知れぬ“事件”という様相ながら。
そんなことなぞ知りもしないで、
彼女の意識が戻る前に行われた、とりあえずの事情聴取の中。
妙な遠慮が挟まってしまっての
彼女らの、それこそオフレコ事項として、ついつい口にはせなんだものの、
勘兵衛や佐伯刑事にだけは告げておいたこと。

  依然として今現在の肩書に謎の多い、丹羽良親という男が、
  あの現場に、拉致犯の側の一員として立っていたことを、
  はてさてどう処理したらいいのかなぁと。

忘れなさいと言われても そうはいかぬと立てられた、
見過ごし不可能な高札や杭ででもあるかのような引っ掛かりとして、
お嬢さんたちの意識の内へ深く突き立ったままになっており……





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  *今回の文章に、
   官庁関係者への“決めつけ”ぽい描写が
   ついのこととて居並んでおりましたが、そうでない方にはすみません。
   国民とじかに接する方であればあるほど、
   誠実な人のほうが多いはずと判っているのですが、
   打って変わって“長つき”の、しかもキャリア組は
   上しか見てない傾向が強そうなんだろなと思いまして。
   (だってテレビで紹介される“官僚”の方々って、
    そんな人ばっかじゃん。)


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